美術科 日本画コースDepartment of Fine Arts Japanese Painting

[優秀賞]
正村公宏|flow
千葉県出身
金子朋樹ゼミ
2500×6000×50mm 和紙、岩絵具、墨、胡粉

私たち人間は、人間が何らかの動作を行う瞬間を、エピソードとして記憶しておくことは可能だが、その場面の図像として長期的に記憶保存することはできない。
しかし、その場面を図像として描き起こしたならば、果たして記憶の中のイメージと合致するのだろうか。もしくは違う見え方になってくるのだろうか。 私は、人間の動作の連続性を用いて、記憶についてアプローチしたいと考えている。


金子 朋樹 准教授 評
 私たち人間は視覚系能力によって、豊かな視覚世界を知覚出来ます。正村君は、その視覚と記憶の相互関係について見つめ続け、絵画によって一貫した表現を行なってきました。
 人間の記憶には短期記憶と長期記憶があり、さらに体験を通した記憶、いわゆる「エピソード記憶」というものがあります。正村君はその記憶に着目した上で視覚記憶を卒業制作のコンセプトに据え、身体の連続的なムーヴメントを用いたアプローチを試みました。
 和紙と墨、そして僅かな顔料という厳選された素材は、身体の所作に焦点を絞り込むと同時に、モノクロームでありながらも豊かな彩りを感じさせます。和紙の白地を活かして幾層にも塗り重ねられた身体は、一定の規則性を担って残像を織りなし、作品のスケールと相乗しながら観る側の視点に揺さぶりを誘発します。
 Flow/流れ、流動。
 それは、時間軸を内包した身体の流動を表したものだけではなく、私たち人間のイメージの不安定さと、可変性ある記憶に対する私たちへのメッセージであり、現代における問い掛けでもあると言えるでしょう。