[最優秀賞]
安達栞|楽園
茨城県出身
中村桂子 教授 評
安達さんには独特の視点と感性があります。
版画の演習もリモートだった昨年度前期、充分な制作環境にないからこそ「何を描きたいか」だけでなく、それを自身が版で表現することの意味やそれにまつわる作業との関係、そこから展開できることを改めてひとつずつ思考し手を動かすようになって、安達さんの制作に変化が生まれたと感じました。
複数の版を作りそれらを刷って一枚の絵を完成させる版技法のプロセスのなかで、一版ずつ版を刷り重ねる、つまりレイヤーを重ねていくなかで生まれる色の重層感、刷られる紙の素材、油性のインクとは異なる水性絵具の持つ透明感と軽さなど、技法や材料と独りでじっくりと向き合ったからこそ、そこから新たな広がりを見出しました。
画面の向こうに棲む人はどこか懐かしさを覚える佇まいなのに、時空も超えて自由で軽やかに存在しているように感じるのは、安達さんの版表現への信頼の表れと思います。