[優秀賞]
池田璃乃|easter egg
情報の平等化は、事象と受け手との距離を測り、平等という言葉とは裏腹に「呪い」とも言える格差を実感させる。文字や画像から抽出した何かを表すために繋がれていた情報としての線を作品上で解体し、再構築した線同士の位置や重なりから複雑なシミュラクラ現象のように顔を描き起こす。線が顔となり新たな意味へと移行する時こそが「呪い」を解く端緒である。
青山ひろゆき 教授 評
池田さんは、韓国での個展をはじめ対外的な発表を精力的にはじめている。卒業制作では、36枚の絵画作品を制作し、壁面に合わせて16枚のみを選出し構成した。残りの作品はT.I.P(TUAD Incubation program)展示エリアで鑑賞することができる。
パレイドリア効果の一種とされるシミュラクラ現象を招く無数の線や丸の重なりは、残像のように私たちの視覚に届き無数の顔が浮かび上がってくる。脳内のイメージを丹念に描きあげる絵画制作のプロセスとは違い、全ての行為が生々しく画面に展開され、鑑賞者個々の視点によって顔のイメージが形成される。その顔は、女性的なキャラクターに統一されているが、古典絵画をモチーフとしている場面も存在する。絵画でありながら形態を限定せず鑑賞者の心理によって自在に変化する表象は、双方向性によってようやく成立を迎える。
豊かな彩りによる線と臨場感のある塗りからは、上質なセンスを感じ取れる。広範囲なアートの知識と情報を礎に自己の深層を紡ぎ出し絵画へと展開する力からは、今後の可能性を強く期待できる。