当時の地表面を示す痕跡「乾裂」の基礎的研究―山形県高畠町日向洞窟遺跡を例にー
天間智尋
青森県出身
青野友哉ゼミ
本研究では、主に日向洞窟遺跡から検出された乾裂 (図1?図3)やその他の遺跡から検出された乾裂について、パターン分類を行い、これまで認知されていたものや地質学の成果を考古学の研究に取り入れることで、新たな視点から古環境や遺跡形成過程の復元ができる。本論は、旧石器時代から弥生時代を対象としている。日向洞窟遺跡では、TP1の9層下部から10層上面にかけて亀甲状クラックが発生しており、また深堀区では亀甲状クラックの他に20点近い剥片や石鏃?土器片などが検出されている。また、TP2のC層からD層でも亀甲状クラックが検出され、遺物は張り付くように出土しており、頁岩製の尖頭器の大型石器や土器?炭化物などがこの面で多く出土しており、一部の剥片は乾裂が落ち込む格好で検出されている。
本論の成果として、同じ土壌の性質を持った面で、パターンの違う乾裂が複数存在している。また、尾花沢市では氷楔痕が検出されているが、日向洞窟遺跡では地殻変動による地割れの痕跡の乾裂と混在していることから、土壌の性質だけではなく遺跡が立地していた場所や標高?地域によって環境が異なることから、環境の変化だけではなく、乾裂の成因は遺跡立地と関係があることが判明した。さらに、「乾裂は発見例が少ない。」「認知はされているものの考古学の研究がされていない。」という問題点があるが、発見例が少ないのではなく、認知されていても見逃していたり当たり前の現象だからこそ問題意識が向かわなかったりするなどの可能性があることは否定できない。遺跡で検出された乾裂と調査中にできた乾裂の見分け方として、異なる土壌はクラック内に入り込んでいるかが1つの判別方法となる。他にも、乾裂はその場所の地表面が離水し乾燥した証拠となることはもちろん、低湿地遺跡の限った現象ではなく、その遺跡が立地していた場所の周辺に湖や河川など水が生活の一部として利用されていた場所ならば乾裂ができる成因となる。