[優秀賞]
原田綾乃|9.8g
福岡県出身
中村桂子ゼミ
サイズ可変
何かが在ること。それを知覚していることは私とその何かの間に距離が生じていることでもある。その距離の可視化を試みることは、自身の存在を対象化する試みでもあり、また確かめる試みでもある。
現在は、‘区切られた一つの不可視な空気の中に、質量を伴う実物を取り除き(置き続け) 移動させることで、空気中の質量を揺り動かすことができるのではないか’と自身の中で仮説を立て、制作している。
深井聡一郎 芸術文化専攻長 評
原田は1枚の版木を彫り、その工程毎に版木の表と裏を刷る。それらを工程順に並べることで大きな作品として提示している。版木が彫られ小さくなるにつれ作品に現れるいわゆる版画の部分が縮小していく。また作品の前床には彫られた版木の屑が、行為の残像として散りばめられている。
当然木屑にもインクと白木の表裏を見て取れる。原田は版画とは何か思案し、版で作品を刷るのではなく、彫るという行為と彫られた版木に起こる現象を都度刷ることで記録し、行為の全てを作品とした。意識から行為へ、そこから浮かびあがる現象と構造が、版画の新しい在り方を美術界に示してくれる気配を感じた。この先の展開を期待し、優秀賞とする。