麿光輝|北海道有珠モシリ遺跡出土石器における使用パターンとその性格-使用痕研究を通じて-
福島県出身
青野友哉ゼミ
目 次 本研究の目的/研究の整理/分析の対象/遺物資料の分析/今後の課題と展望
研究で対象とする北海道伊達市有珠地区の小島に位置する有珠モシリ遺跡は狩猟採集社会から稲作農耕社会へ転換していく際に各地で存在していたとされる「続縄文」という両文化に通じており、遺跡は3ヵ年計画で伊達市噴火湾文化研究所と東北芸術工科大学の共同実施によって発掘調査が行われた。本研究では遺跡発掘調査で出土した石器に残された使用痕の観察を行い、当時の人々の石器の用途を明らかにする事を研究の目的とする。
遺物の観察で見られた痕跡は「マイクロフレイキングの実験的研究」(阿子島 1981)にて石器の作業内容と使用痕の様相との間の相関から分類した6つパターンを参考に、阿子島が実際に各条件下での結果によってできた石器の表面に形成されるマイクロフレイキングの平面形の特徴(図1)を対象とする遺物に当てはめて使用方法?被加工物を考察する。観察する遺物は2019~2021年の遺跡発掘調査で出土した289点の中で石器表面に痕跡が見られたもの計35点を抽出した。
遺物の観察で見られたマイクロフレイキングのパターンは5つであった。「軟かい被加工物の直行方向の運動」の痕跡がみられた石器は3点。特徴として、刃部の後面に痕跡が集中し、後面にうろこ形を主体としに大きさのばらつきの少ない比較的小さなフレイキングが連続的に並ぶ(図2)。「硬い被加工物?直行方向の運動」の痕跡がみられた石器は1点。特徴として、後面に平坦なうすく大形なフレイキングとその縁辺の連続するステップフレイキングが重複する(図3)。上記以外にも「軟かい被加工物の平行方向の運動」が1点、「中程度の被加工物?並行方向の運動」が2点「硬い被加工物?並行方向の運動」が1点みられた。
抽出した石器35点のうちマイクロフレイキングが観察できたのは計8点だった。使用痕の特徴から考察すると、「生皮こすり」の使用過程を踏んだ石器が3点、「骨の掻き取り」の使用過程を踏んだ石器が1点、「草を切る?草刈り」の使用過程を踏んだ石器が1点、「木の鋸引き」の使用過程を踏んだ石器が2点、「鹿角の掻き取り」の使用過程を踏んだ石器が1点見られ、当時の人々の石器の用途を推定することができた。