歴史遺産学科Department of Historic Heritage

廣瀬拓海|灯台の記憶と振興活用―鼠ヶ関灯台を事例として―
山形県出身
松田俊介ゼミ

目 次 研究目的/方法/考察?結果

2000年代後半以降、日本の灯台は、国の廃止計画によって数を減らしている。だが、「恋する灯台プロジェクト」などが開始され、灯台の振興活用も活発になっていた。筆者は灯台について「身近な人達にとってどういうものか」、「外部からの価値付けは地域にどう影響しているのか」という点に関心をもった。そこで本研究では、「地域住民にとっての灯台の認識」、「灯台に関わる外部からの刺激の影響」、「歴史的価値の活用含む灯台の今後の可能性」について鼠ヶ関灯台(図1)を対象として調査し、明らかにしていく。
地域住民へインタビューを実施し、①灯台への認識、②「恋する灯台プロジェクト」、擬人化コンテンツ「燈の守り人」などの取り組みへの意識について、調査した。また、廃止灯台に対し、撤去/観光資源化という異なる措置をとった2つの自治体(由利本荘市?白老町)に聞き取りを行い、比較を行った(図2)。比較から、廃止灯台が観光資源化される要因に「地域住民が灯台に価値を見出し、残すものと捉えているか、実際に要望が提示されているか」が関係していることがわかった。
鼠ヶ関灯台を対象に調査した結果、灯台を歴史的な価値があるも のとして振興活用することの困難があった。「歴史的価値があるかど うか」と、「そこに焦点が当たるかどうか」が別の問題であること、 灯台の振興活用には身近だからこそ発生する課題があることを、今 回の調査を通して知ることができた。  本事例では、外部のアクター(灯台の振興事業や好事家)による 灯台の価値への評価(図3)が大きな機能を果たしていた。周辺住民には、 灯台を「当然のもの」として受容する状況が続き、それが社会通念 となっていたが、本事例での外部アクターは、身近でないからこそ、 灯台に焦点を当て、振興活用で重要な役割を果たした。いっぽうで、 外部アクターにメディア上で広く取り上げられるだけでなく、住民 主体で灯台をめぐる集団的記憶も発信しなければ、(観光客が実際に 足を運ぶような)地域の振興にはつながらない。歴史を活用した地 域振興は――鼠ヶ関灯台をめぐる取り組みのように――、外部と内 部との連携と、多様な視点からの発信によって行われていくことが 重要といえるだろう。

1. 弁天島に建っている鼠ヶ関灯台

2. .比較調査から作成した図

3. 鼠ヶ関の「恋する灯台」紹介看板