外山匠|競走馬にみる日本人の意識 ―引退馬支援団体の活動と競馬場の観戦者から―
山形県出身
松田俊介ゼミ
目 次 はじめに/研究の背景/競馬の現状と引退馬?養老馬/調査/分析?考察/おわりに
競走馬は競馬に必要不可欠な存在であるが、競走馬の引退後の動向はあまり周知されていなかった。近年では、引退馬支援団体の活動やJRAにより引退馬支援の風潮が高まっているという。
本研究は主に日本における引退馬に焦点を当て、辿ってきた歴史、また人々の競馬や競走馬に対する意識はの形成や変化を明らかにするものである。
文献調査では、今日見られるような引退馬に関する記述は僅かしか発見できなかった。
インタビューでは引退馬協会、yogiboヴェルサイユリゾートファーム、サラブリトレーニング?ジャパン、上山ゼンディングクラブの4団体から協力を得た。判明した共通点として、関係者間に「暗黙の了解」が存在していたという証言が4団体から得られた。暗黙の了解には、行政機関ですら引退馬の正確な動向はつかめていないことや、「○○(地名)へ行った」「乗馬に行った」などの隠語で表現するなどの数多くの事例がある(青木1995,金澤2016)。青木(1995)や金澤(2016)の言葉を借りると「暗黙の了解」は「やましさ」と「他人への配慮」によって形成されたものであると考えられる。またよく言われている「事なかれ主義」が、「暗黙の了解」に大きく働いた結果である可能性も考えられる(図1)。他の共通点としては資金と人手の不足、支援者は女性が多いという点が判明した。引退馬支援事業は規模の大小に関わらず持続性が低く、資金と人手の問題は共通課題だと言える。
競馬場ではニュートラックかみのやまと福島競馬場の二箇所で聞き取り調査を行なった。。前者では職員の松田氏に聞き取りが出来た。松田氏は経済動物の優劣の有無に疑問があり、動物愛護の観点からは反対としつつも、良い血統を後の時代へ繋げる目的で有名引退馬の支援はすべきだと回答していた。また、観客は基本的には勝敗などのその瞬間しか見ないため、引退馬保護に興味を向ける者は少ないとも回答した。後者では50人(男性25人、女性25人)の観客に、引退馬保護?支援について聞き取り調査を行ったところ、賛成29人、反対8人、その他が13人という結果になった(図2)。賛成派の意見には、好きな馬や応援していた馬に元気に過ごして欲しいという想いや競走馬を食肉加工すること自体に疑問や反感があった。対して反対派の意見からは、競馬という世界の厳しさへの理解や割り切りが見え、引退馬保護?支援の風潮の強まりに対して辟易の念や戸惑いが見えた。