鈴木佳奈|有珠モシリ遺跡出土動物遺存体からみた動物利用の特徴
茨城県出身
青野友哉ゼミ
北海道伊達市?噴火湾沿岸沿に所在する有珠モシリ遺跡。縄文晩期?続縄文期に形成されたこの遺跡には人骨?土器?石器?南海からの交易品といった幅広い遺物が出土しているが、本論文では中でも貝塚層から出土した動物骨をとりあげた。本論の目的としては、先行研究より北海道の縄文晩期に形成された貝塚の研究例が少ないという状況から、晩期に該当する当遺跡の動物骨を用い基礎データを一部補完すること、動物骨の分析を通し有珠モシリ遺跡の当時の環境?動物利用状況を復元することを目的としている。扱う動物遺存体資料は陸獣、海獣、鳥類、貝類、魚類と分類し、手法としては骨ほ動物種?部位を特定する同定作業、そこから分析①として出土比率の差異に着目した。出土する骨の部位の偏り=当時持ち込まれた部位の偏り、そこに意図される遺跡に持ち込む資源の取捨などといった考察から、当時の大まかな動物資源の利用についてを検討した。また、分析②として骨に残された当時の痕跡の観察を行った。カットマークとよばれる、肉を解体する際に骨に残った刃物の痕跡(図1)があり、それがついている部位から解体状況を復元すること、スパイラル剥片と呼ばれる骨髄を採取するため骨を破った痕跡(図2)から動物骨の利用状況についての考察を加えた。
さらに出土品の中に見つかったイノシシの骨(図3)についても着目すべき点がある。イノシシは本来北海道に生息していない動物であるため、当遺跡で出土したイノシシの骨は本州より搬入されたものと考えられる。搬入方法について考察するために、MUGIと呼ばれる動物の部位ごとの有用度を示したグラフと比較したところイノシシの骨には有用度が低く破棄される場合の多い部位が多く出土していることがわかった。つまり本遺跡においてイノシシの搬入の際には、解体されたものではなく、完形の状態、あるいは生体のまま持ち込まれた可能性があることが考えられた。また運搬コストから考えた際に、成獣の生体、完形での運搬を考えられる他に、より運搬しやすい幼体を搬入の対象としていた可能性についても検討し、今後のさらなる研究につなげていきたい疑問点が浮かび上がった。