歴史遺産学科Department of Historic Heritage

尾崎鈴寧|八戸市小中野の諸相-新むつ旅館とその界隈-
青森県出身
田口洋美ゼミ

目次 研究目的/研究方法/研究結果

 青森県八戸市は、県内の南東部に位置する地域である。市内の一帯は水資源に恵まれた地形をしていたことから、近代は全国屈指の水産都市として栄えた。今回題材として取り上げる八戸市の小中野地区も、東北最大規模の歓楽街を形成した地域として位置付いた過去があった。しかし、そのように全国的に知れ渡ったかつての港町が、現在は見違えるかのように静かで穏やかな場所となっている。本研究の目的は、近代において急速な発展を遂げた八戸市の港付近を舞台に、その発展の後押しとなった小中野商業地区界隈の様々な姿を記録することである。また、この研究を遂行することによって界隈の歴史的価値や重要性について多くの方に知っていただき、そこに貢献したいとも考えている。
 研究方法としては、文献調査と現地での聞き書き調査を行った。文献は市史や調査書、新聞、地図等を利用し、小中野地区の基礎的な変遷を把握した。聞き書きでは元遊郭の新むつ旅館を中心として、三味 線小屋や履き物屋、氷屋、毛皮屋、神社、寺、酒蔵等を対象に調査を進め、それぞれのライフヒストリーと共に店舗の現状を記録した(図1?2)。
 本節では、かつて漁港都市として栄えた八戸市の港付近に位置する小中野地区を中心に、そこで形成された商業地及び関連施設の変遷や現状について調査を行ってきた。その調査の結果、まず小中野地区で形成された商業地は、港やそこで行われていた漁業と様々な繋がりを持っており、互いに共生関係を構築していたことが分かった。また上記の変遷を踏まえ、現在の小中野地区は漁獲量、各経済機能、人口、人の賑わいの著しい減少という点において衰退が加速していたことが明らかとなった。しかし一方で、衰退の煽りを受けながらも長く人々の支持を受けて営業している店舗、施設等も存在したことから、歴史ある小中野の場所性としての価値は失われていなかったことが分かった。つまり、小中野地区は目に見えた衰退の様子が見られるものの、未だ港付近で栄えた町としての価値を保ったままであったということだ。
 しかし後継者が途絶え閉業した状態の新むつ旅館を目の当たりにし、その価値を守り伝えていく存在が不足しているというのも事実的な問題としてあった。かつての盛況の風景を全く知らない私達が、その界隈にどのようにして価値を見出すのかが、現下の課題であると考える。

1. 元遊郭の新むつ旅館

2. 遊郭だった当時の様子

3. 小中野地区の地図(1939年)