鈴木智翔|廃校並びに公民館を活用した文化財の保存展示施設の環境調査
秋田県出身
佐々木淑美ゼミ
廃校や旧公民館といった建築物を文化財の保存展示場所として利活用する事例が増えている。理由は、新設するよりも使われなくなった建築物を再活用する方が経済的且つ地域の理解を得やすく、コミュニティの活性化も期待出来るからである。
しかし、学校や公民館は博物館、美術館とは異なり、初めから文化財を保存、展示する目的を持って建てられていない。そのため、温湿度や光などの環境要因を調整する機能が十分でないことも多い。大規模なリノベーションをする場合もあるが、多くの場合は経済的な理由から、そのままか小規模な整備のみで利活用しており、必ずしも適切な環境になっているとは言えない施設も散見される。
そこで、本研究では、東北地方において廃校や旧公民館などを、文化財の保存、展示のために利活用するにあたり、どのような課題があるのかを明らかにし、資金面や管理面などの実状を踏まえた上で、文化財にとって適切な環境を整備するために必要且つ現実的な施策を検討することを目的とし、現状調査と、山形県中山町旧勤労文化センター(図1、図2)での実例調査を行なった。
現状調査から、廃校や旧公民館の利活用事例は多岐に渡ることや博物館、美術館、資料館として活用している事例は東北地方だけでも20件以上あることが分かった。また、文化財保存展示施設として利活用することで、地域の文化振興が期待できる一方、保存展示環境として可能な限り適切となるよう配慮が必要になるため、いかに無理なく整備するかが課題であることがわかり、利活用の難しさを感じた。
実例として調査を実施した山形県中山町旧勤労文化センターの事例でも、文化財に適した環境としてどこに重点を置くか、いかに無理なく経済的に整備できるのかを意識して調査を進めた。調査結果から、建築物が元から持っている気密性の高さを活かしながら、窓に遮光物を設置することで温度上昇を抑え(図3)、文化財の配置を工夫すれば適切に保管できると分かった。さらに、冬季の環境も把握した上で、来春までに施策案を提案する予定である。