文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

三戸莉奈|琉球紅型の技法的特徴と劣化についての研究
福島県出身
佐々木淑美ゼミ

 琉球紅型は、染料だけでなく、日差しが強い沖縄の気候でも退色しづらい顔料も用いて染められている。琉球紅型について調べていくと、製作工程の中に「蒸し」という作業があることが分かった。この生地を蒸す作業によって、顔料の耐久性を得ているという指摘もあるが、この推測には科学的根拠はなく、十分に検証されていないものであることがわかった。そこで、本研究ではこの「蒸し」の作業が琉球紅型の耐久性にどのような効果をもたらしているのかを検証した。
 実験では、知念紅型研究所さんに作製してもらった、①顔料で配色した後の蒸しの工程をしていない糊がついたままの生地、②生地を蒸して洗った状態のもので白地型の生地、③先ほどの②の生地を緑の染料で染めてからもう一度蒸して洗って完成させた生地、といった製作工程3通りの実験サンプル(図1)を使用した。実験内容は、①温度湿度による劣化実験、②紫外線による劣化実験、③水分と摩擦による劣化実験とし、それぞれの結果を、色差計とデジタルマイクロスコープを用いて評価した。
 実験の結果、①温度湿度による劣化実験では、特に黄色において蒸しの効果がみられた。ただし、紫色のように変化しないものや、茶色のように逆にくすんでいったものもあった。②紫外線による劣化実験(図2)では、2日ほどで布は黄ばみはじめ、模様部分では黄色と青色が3か月間紫外線を照射しても色が薄れず濃くなっていったことから蒸しの効果を認めることができた。水色やピンクなどといった薄い色は全体的に白けていった。③水分と摩擦による劣化実験(図3)では全体的に蒸し1回目が一番鮮やかな色調で、蒸し2回目では多くの色の色調がくすんでいった。これは、サンプルに使用されていた染料の影響であると推測できる。
 以上の結果から、サンプルに使用されているほとんどの顔料と染料において、蒸しによって色調が鮮やかになり、維持される効果がもたらされると分かった。つまり、この「蒸し」の工程は、琉球紅型にとって必要不可欠な工程であるということが推察される。特に、黄色は光、熱、水分、摩擦のどれに対しても色調を維持し、蒸しの回数が多いほど鮮やかになった。ただし、すべての顔料や染料に蒸しの効果がもたらされるわけではなく、今回のサンプルに使用されている顔料や染料以外のものについても今後検証する必要がある。

1.実験に使用したサンプル(劣化実験前)

2.紫外線劣化実験後のサンプル

3.水分と摩擦による劣化実験後のサンプル