坂本圭吾|仮張りパネルにおける柿渋の色と防水性に関する研究
宮城県出身
杉山恵助ゼミ
装潢文化財は紙、絹から成る支持体に絵具や墨で描かれた伝統的な絵画、書物である。装潢文化財の形態の1つに掛軸がある。掛軸は作品の裏面から複数の紙を重ねて張り合わせることで支持体を形成している。このような裏面から紙を重ねて接着する工程を裏打ちと呼ぶ。裏打ちされた直後の作品は、糊などの水分を含んでいるため乾燥させる必要がある。しかし、濡れた作品をそのまま乾燥させるとシワが生じる恐れがある。これを防ぐ乾燥方法の1つに仮張りと呼ぶ方法がある。 仮張りとは、作品をシワのない平滑な状態に乾燥させる目的で行う乾燥方法である。仮張りは、仮張りと呼ばれるパネルの形態をしており、内部は襖のような木枠で、表面は紙が積み重なった構造をしている。また、表面の紙には柿渋という渋柿の果実(図1 )が原料の塗料、染料が塗布される。柿渋には防水性があり、仮張り表面には適度な防水性が付与される。一方、仮張りには木製パネルを用いる技法がある。しかしこの技法では、湿度が急激に低下すると作品が裂ける危険性がある。これに対し仮張りパネルは、防水性を保ちながら、適度な浸透性をも有し、適度に水が浸透することで作品と共に伸縮が起きる。これにより、作品は安全に乾燥させることが可能になる。しかし、仮張りの特性を示している情報は確認できない。また、仮張りを製作する際には柿渋を一日毎に塗布する事を繰り返す。柿渋を塗布した仮張りは、乾燥させる工程で太陽光にさらして乾燥させる。また紫外線に当てることにより、柿渋は色が濃くなると言われている。しかし仮張りの防水性は、柿渋の塗布方法によってどれだけの効果が得られるのかという事が現在も不明である。したがって、本研究では柿渋の色と防水性に着目した。柿渋の色の濃さと防水性との間に相関関係があるのか検証する事を目的とする。
柿渋を塗布したサンプル(図2 )の色比較実験の結果から、柿渋は塗布回数を重ね、紫外線量と塗布毎の乾燥時間を増やし、濃度が高いと色が濃くなる傾向にあった。また、天王柿というタンニン含有量が多いとされる柿渋造りに適した渋柿の品種を多用した柿渋は、他の柿渋に比べて濃い発色を示した。浸透比較実験(図3)では、塗布回数、柿渋の種類と防水性との間に相関性を示す結果は得られなかった。対策として、サンプルの平滑性を一定にすることに加え、浸透した水分量を一定にし、サンプル数を増やす事が必要である。