自然災害やコロナ禍など、否応無しに自分の身の安全を考えさせられる機会が増えたように感じます。
コミュニティデザイン学科4年生の手嶋穂(てじま?みのり)さんは、南海トラフを震源とする海溝型地震が予想されている静岡県出身で、子どもの頃から災害に対しての危機感を持ってきました。現在、「災害経験を次にどう生かすか」に着目したコミュニティデザインの研究を進めている手嶋さんにインタビューしました。
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熱中できることを考えてたどり着いた
「コミュニティデザイン」という選択
――コミュニティデザイン学科を選んだ思いを聞かせてください
テレビ番組の影響もあり、小学校5年生の時から建築士になりたいと思っていました。でも高校3年生の大学受験を目前に自分のこれからを考えたとき、「本当に建物を作りたいのか?」と疑問を持ちました。
建築士になるためのスキルの無さに気付くのが遅くて絶望した記憶がありますが(笑)、模型作りやデッサンも好きではなかったし、家を作る自分があまり想像できなかったので、自分が熱中できること考えてたどり着いたのが、「コミュニティデザイン」でした。
進路選択というよりは、「今、自分がどうありたいのか」を優先した選択だったと思います。
――その気持ちに気付けたきっかけは?
私の出身校は探究学習が盛んだったので、自分たちの考えを地域で実施したりアイデアを聞いてもらっているうちに、その環境が楽しいと感じている自分に気付きました。
探究学習を続けたい、ここで終わらせたくないという思いを担任の先生に相談した時に、この大学のコミュニティデザイン学科を紹介してもらいました。
人と人が会えない環境にこそ、
ファシリテーションの力が必要
――コロナ禍ですが、学科での学びが生かされていると感じたことはありましたか?
地域の皆さんに実際に会えなくても、これまで学んだファシリテーションやプロジェクト運営の力は生きると感じています。
例えば、コロナ禍の影響で新学期の開始が延期されている間、小?中学生を対象にオンラインで学びのサポートをしていましたが、人と人が実際に会えない環境下で、ファシリテーション力の必要性を強く感じました。
勉強や宿題の内容を聞き、その子が分からない単元を説明する動画やテキストを文科省のサイトから探して宿題として取り組めるようにする伴走型支援でしたが、これまで学んできたファシリテーターに必要な「聞く」、「相手の考えを整理する」スキルが生かせたと思います。
――地域で活動することは、手嶋さんご自身にとってどんな意味がありますか?
毎秒、自分をアップデートできることです。活動していると思い通りにいかないことがほとんどなので、その都度、自分たちの頭で考えて動くしかありません。それはもうスリリングなんてもんじゃないんですけど(笑)、それによって成長も、達成感も、感動も大きいと感じます。
――特に印象に残っている活動は?
山形県大蔵村肘折地区での活動です。旅館や商店の若旦那世代の皆さんが、やりたいことを実施できていないという課題があったので、温泉街に新しくできたカフェを活用して、話し合っていただく機会を作りました。
この部分だけ話すと、淡々と進んだように聞こえるかもしれませんが、実際には、たくさんの手紙を書いてワークショップに参加してもらったり、温泉街にある20件以上の旅館と商店の全てに、一軒一軒インタビューをしたりもしました。
肘折地区の皆さんは稼業の温泉旅館で働いている方が多く、地域から出る機会が少ないという悩みがあったので、自分たちも楽しむ機会をつくるため、昔遊んだ卓球や、ダーツ、輪投げなどで「大人が遊ぶ日」を企画して開催しました。
偶然が引き寄せる出来事をロジカルに、
そして行動へ。
――体力と精神力が必要なそうした活動の原動力となっている考え方はありますか?
大学4年間ずっと大切にしてきたのですが、「行動あるのみ」ということです。自分に一番合っている姿勢はこれだと確信した瞬間がありました。
もう一つは、「気合と根性だけでは生きていけない」ということです。これは、地域活動でお世話になった岩井秀樹(いわい?ひでき)先生(2019年まで本学非常勤講師)の言葉で、聞いた時は落雷とトンカチが一緒に落ちてきたくらい自分にとって痛かった言葉でした(笑)。
それからは、「本を読む」、「手法を学び活用する」、「ロジカルに考える」を身に付けようと誓いました。まだ完璧とは言えませんが、この考え方を大切にして、いつも学ぶ目的や必要性を見落とさずにいたいです。
――教育支援を行う企業への就職が内定していますね
コミュニティデザイン学科が主催する「SCHシンポジウム」がきっかけで、地方創生や教育に関わる「株式会社Edo(エドゥ)」(本社:岐阜県飛騨市/以降、「Edo」)に入社が決まりました。
始めはFacebookでのつながりだけだったのですが、2018年の「SCHシンポジウム」に参加してくださった時のお忘れ物を送付させていただいたお礼として、本社のある飛騨にお招きいただいたんです。私にとっては初めての飛騨で、とても好きになりました。
そして3年生の頃から、この会社のイベントやオンライン家庭教師などに積極的に協力させていただいているうちに、社員募集はしていなかったのですが入社させていただくことになりました。
コミュニティデザイン学科1年生の時に最初に習った「プランドハプンスタンス」という、人との出会いや偶然の出来事を積極的にキャリア形成に生かす考え方が生きているように思います。
――今、取り組んでいることがあれば教えてください
山形県戸沢村蔵岡地区をフィールドに、卒業研究で「過去の災害を振り返り、地域にあった防災訓練を考えるツールの開発」を進めています。2018年8月に2度の大きな浸水被害を受け、人的被害こそ無かったものの地域住民に「水害慣れ」というものがあり、解決するためには、戸沢村の中でも一番防災意識や当事者意識の高い「蔵岡地区」と連携することが、今後の防災につながりそうだということが分かりました。
――防災は全国的に喫緊の課題ですね
「防災」を卒業研究のテーマに選んだのは、私自身、大きな地震があることが想定されている静岡県の出身で、いつも防災に対する意識を持ってきたことと、今、東日本大震災が起こった東北で学んでいることがとても大きな理由です。
そんな私が「防災×コミュニティデザイン」に向き合って得られたことを、地元に限らず他の地域でも活用できるようにしたいという思いがあります。
――どんな視点を意識して取り組んでいますか?
「住民視点」を大切にして、その地域で生活している人が感じていることや潜在的ニーズを分析し、本当に必要な課題を設定することです。そして、自分が本当に解決したいと思うのか?やっていて楽しいのか?という「私視点」も大切にしています。
この課題設定に行き着くまでに、何度も仮説を立てては壊すことを繰り返しましたが、この両方の視点があることでいい課題ができ、解決のために最後まで奮闘できると思っています。
――卒業後の目標を教えてください
今の一番大きな夢は、「みんなが自分らしく生きられる世の中をつくる」ことです。そのためにまず入社してからの5年間でやりたいことは、「東海版サマーアイデアキャンプを飛騨で開催する」ことです。さらに先は、「東海を盛り上げる!」ことです。
それらを実現するために、自分が持っている武器をどう伸ばすかということと、自分のやりたいことを具体的にエピソードで話せるように、個人のスキルをもっと高めていきたいと思っています。
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コミュニティデザイン学科では、「コロナ禍の今」だからこその課題や解決のためのアイデア、経験を重ねる授業を展開しています。取材におじゃましたこの日も、同学科1年生たちが、「事例研究」という授業で、山形市、群馬県富岡市、宮城県気仙沼市の地域の皆さんのご協力を得て「オンライン街歩き」「オンライン飲み会」を実施していました(その参加者には70歳代の方も)。
手嶋さんは中学生の頃、部活の部長として、部員たちをうまくまとめることができなかった経験から、心理学や哲学、倫理を学んだり、「かっこいい大人に会いに行く1カ月間の旅」も自分で計画して実行するような行動力があります。
自身の体験に紐付けられたリアルな学びに、手嶋さんのロジカルな思考と行動力がプラスされ、偶然もチャンスに変えている力を感じました。
(取材:企画広報課 樋口)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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