「認定NPO法人カタリバ」は20年続く教育NPO法人で、現在、コミュニティデザイン学科の卒業生である佐藤緑(さとう?みどり)さんをはじめ100名を超えるスタッフが全国各地で活動を行っています。目指すのは、“どんな環境に育っても未来をつくり出す力を育める社会”。それに向けて、高校生へのキャリア学習プログラム「カタリ場」や、高校生が身近な興味関心に取り組む実践型探究学習「マイプロジェクト」といった事業を展開するほか、自然災害を受けた現場での子どもたちの居場所づくりや、コロナ禍でのオンラインサポートプログラムなど、全国の子どもたちに出会いと学びの機会を届ける活動をしています。
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高校生がチャレンジしやすい環境を大切に
高齢化が進む課題先進地域?島根県雲南市。佐藤さんは「雲南市教育魅力化コーディネーター」として市内の高校へ赴き、子どもから大人までチャレンジに溢れる町で、誰もが幸せを育める教育環境を実現する「雲南市高校魅力化プロジェクト」に取り組んでいます。
――はじめに、「カタリバ」と「島根県雲南市」の関係について教えてください
佐藤:雲南市は2004年に合併した新しい自治体で、いろんな人が視察に来るくらいまちづくりに一生懸命な地域として知られています。カタリバのキャリア教育の活動が取り入れられるようになったのは2015年からで、さらに2017年からは、高校、行政と連携しながら探究学習を支援する、高校魅力化の活動が始まりました。
――佐藤さんが雲南市で活動を始めたのはいつから?
佐藤:私は2020年4月から雲南市で活動しています。それまでは岩手県大槌町で2年間、被災地にいる子どもたちの放課後の居場所づくりに関わってきました。そこで目にしたのは、綺麗に舗装された道路や、着々と工事が進む防波堤、更地にぽつぽつと建設される新築の家々。私はそれまで、昔ながらの趣ある街並みからその街の歴史を知るものだ、ご近所さん同士の会話からより深く土地の文化を知ったりするものだ、と思っていました。なので、復興工事による真っさらな景観や、町内会が再構築の真っ只中である様子を見て、「“地域”ってなんだっけ?」と改めて突き付けられた思いでした。
そんな衝撃の一方で、町や生業の復興に奮闘する住民の方々や、震災という強い原体験を強さに変える子どもたちと出会いました。震災を機に加速していた東北の太平洋沿岸部の教育を、どうやって地元の山形や東北全域に生かせるだろうか。2年間頭を巡らせ、地域づくりと教育をともに考えていきたい、また大学の卒業研究のテーマにしていた「探究学習とコミュニティデザイン」をより深めていきたいと思い、雲南市に行くことを決めました。
――現在、佐藤さんが取り組まれている「雲南市教育魅力化推進事業」とは?
佐藤:高校?行政?民間が協働し、学校内外で「日本一チャレンジに優しい教育環境」を目指すと取り組みです。私は主に、学校の探究学習や、放課後の社会教育プログラムの企画を担当しています。雲南市の皆さんと共に、雲南市の課題解決につながる活動を通して、対話力や課題解決能力などのスキルはもちろん、高校生自身の幸福度の向上を目指しています。
特に2020年度は、1年生の授業に関わりました。コロナ禍のためにリモートで届けたり、それまでは地域に出向くフィールドワークの授業があったのを、逆に地域の方々を学校に招いてゲストトークとしたり。そこから何かやってみたいと感じた高校生が、社会教育プログラムに参加してさらに自分の興味関心のある取り組みを始めるなど、動き出しています。
――生徒としては、自分たちが動くことで社会が動くことを実感しつつあるわけですね
佐藤:そうですね、そういった成功体験が生きるといいなと思います。雲南市には、子どもたちに限らず、大人の企業支援や大学生の活動に対してもふるさと納税を使った助成金制度「雲南スペシャルチャレンジ」があるんです。それを軸にしながら大人も子どももチャレンジしていくことで、まちの中にいろんな連鎖やつながりが生まれていくことがビジョンとして掲げられているので、生徒たちもチャレンジに優しい地域だと実感できているようです。
――授業に関しては、企画だけでなく実際の舵取りまで担当されているんですか?
佐藤:コーディネーターの在り方がたくさんある中で、現状は私たちカタリバが授業を行っています。でも次年度からは「雲南式探究」としてプログラムを確立し、高校の先生方と役割分担して実施していく予定です。
――佐藤さんがお仕事される上で大切にしていることは?
佐藤:高校生や学校の先生方に「探究授業をやっていきましょう」と話をする時、その必要性を「こういう時代だから」とか「こういう風に地域が求めているから」とか、「力を身に付けないといけないから」と理詰めで説明しても、生徒にとっては“やらされ感”になるんですよね。そう言われて納得して始められる生徒はそう多くないですし、先生方でさえ「言葉では分かるけど…」という感じで。
そんな時、ワークショップの手法やゲームを取り入れたりしながら、「だからチームビルディングは大事なんだよ」とか「これからみんなに学んでいってほしい力ってこういうことなんだよ」っていうのを私から説明整理をして、体感的に生徒が自ら気付き、納得していく過程がとても大切になると感じています。高校生が自分で気付いたことと、右脳と左脳で理解できる工夫というか、そういうワークショップデザインの考え方は重宝しています。
コミュニティデザイン学科で得た、学ぶことの楽しさ
――コミュニティデザイン学科を受験しようと思ったきっかけは?
佐藤:進路についてどうしようか考えていた時、地元の大学である芸工大からパンフが届いていて、そこに「コミュニティデザイン学科ができます」っていうチラシが1枚入っていたんです。それを見て「なんか面白そうだな」と思い、後期試験を受けて入りました。
高校時代は所属していた吹奏楽部の活動にのめり込んでいて、地域とは全く無縁だったというか、むしろ社会のこととかいろんな情報をシャットダウンするくらいの意識で部活をしてました(笑)。なので入学した時、みんなが「地元が好きで入ってきました」とか「○○先生に憧れて入ってきました」とか、「高校の時からこういう活動をしてきました」と言っているのを聞いて、正直「なにそれ?」という状態だったんですよね。
でもそこから負けず嫌いの性格もあって、「いろいろ勉強しないと!」と思い、さまざまな活動や学科の出張授業などに参加するようになりました。その延長で「SCH※」の活動が始まっていった、という感じです。
※SCH(スーパーコミュニティハイスクール)ネットワーク:地方創生が叫ばれ、地方の生き残りの厳しさが現実味を帯びている今、「高校は地域に何ができるのか?」「地域は高校生に何ができるのか?」を考えていく場として、コミュニティデザイン学科が中心となり形成した、全国の高校によるネットワーク。多様なセクターが集まるSCHシンポジウムの開催や、高校生向けのアイデアキャンプなどを通して、「まちづくりは、ひとづくりである。」という言葉の通り、全国各地で教育と地域づくりの両方を考えていかなければならないことを知りました。
他にも、山形県高畠町二井宿地区でのスタジオ活動や、広島県大崎上島町でのインターンシップなどで、自分の中で同じように「教育」に焦点が当たるようになりました。こうした活動に関わる中で、次第に教育とコミュニティデザインの親和性の高さを感じるようになり、「教育」と「地域」が自分の中でキーワードになっていきました。
――4年間の学びの中で一番の収穫になったものは?
佐藤:「学ぶ楽しさ」を感じられたことですね。「楽しさ」は何よりもモチベーションになります。高校までの5教科の勉強というのは、私にとっては、ただただ暗記する、つらい、つまらないものという印象だったのに対し、コミュニティデザイン学科での学びは、「Yes, And」「プランドハプンスタンス」など、学びの姿勢を作ることから始まります。自分で考えるものもあればグループワークもあったり、ディスカッションしたりと、同じ時間を過ごしても、自分と仲間の学びが違うこと、またその違いを面白がって学べる毎日でした。芸工大にはそんな面白いコンテンツや仲間がたくさんいて、自分自身が「心躍る学び」「もっと考えたいと興奮する学び」とは何かを身を持って感じたからこそ、私も今、「高校生のみんなに楽しんで学んでほしい」と思っています。
他にも、地域の方への話の聞き方などこの学科で学んだことをそのまま生徒に伝える場面も多くありますし、ワークショップのデザインスキルなども授業をつくる上で生かされていると実感しています。
――ちなみに、カタリバのことは大学の頃からご存知だったんですか?
佐藤:はい、知っていました。中でもカタリバを知る一番大きなきっかけになったのが、「マイプロジェクト」という、高校生が身近な興味関心事をテーマに取り組む実践型探究学習でした。大学2年生の時から、そのプロジェクト事業の高校生向け合宿が芸工大を会場に行われ、私も学生スタッフとして関わらせてもらいました。そこでカタリバのスタッフの方や他の教育NPOの方、またそういったコミュニティの界隈の方々と出会うことができたんです。出会った大人たちは皆、「学びを楽しむ」を体現している方ばかりで、「大人ってこんなに生き生きと生きていけるんだ!」と衝撃を受けました。
―――そんな佐藤さんにとってモチベーションになっているものとは?
佐藤:今は大学で学んできたことを生かしながら自分を広げている成長期のような時なので、できることが一つずつ増えていく感覚はモチベーションにつながっていると感じます。
また、カタリバは結構大きな組織で、日頃から全国各地のいろんな情報が飛び交っていたりするので、そういうところから刺激を受けることもありますし、雲南市で頑張っている方々のお話を聞くと「私も頑張るぞ!」とモチベーションが上がりますね。
――佐藤さんの今後の目標を教えてください
佐藤:2020年はコロナ禍などもあり、特別な年に雲南市に移住したので、先生方や地域の方々と食事しながら語り合う、という時間がほとんどありませんでした。そのため、まずは学校の先生方や地域の方々ともっと企画を一緒に考えていけるような関係性を作っていきたいというのが直近の目標ですね。
また私は今、教育の分野がメインですが、組織やまちづくりに関しても取り組んでいるので、これからも地域の方々のコミュティに入りつつ、地域の人と高校生、両方の視点を大事にしながら活動を続けていきたいですね。しばらくの間は雲南市にいたいと考えています。
――それでは最後に受験生へメッセージをお願いします
佐藤:コミュニティデザイン学科で学んだことはもちろん、デザインやアートというのは自分の価値観をつくる、人生の中でとても大事な学びです。私は日々教育現場で戦っていますが、その価値観やスキルはどんな分野でも生かせるもの。つまり、将来やりたいことが決まっている人にとっても、まだ決まっていない人にとっても、生涯自分を高め続けられる武器になる力です。芸工大には本物の学びを得られる土壌があります。のびのびと感性を磨き、学び、その学びから自分の価値観を見つける過程を楽しんでください!
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今後の社会を豊かに変えていく存在となる高校生たちと、「タテの関係」ではなく「ナナメの関係」という立場で関わる佐藤さん。ほんの少し年上、だけど同世代だからこそ互いに本音で対話し、共に成長していけるのだと感じました。
そんな佐藤さんの土台になっている、コミュニティデザイン学科で身に付けた地域の課題解決のための確かなスキルは、これからも雲南市はもちろんあらゆる場所で発揮されていくことでしょう。
(取材:渡辺志織、企画広報課?須貝)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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