2017年から続く児童文庫の人気シリーズ『ラストサバイバル』(集英社みらい文庫)。その著者である大久保開(おおくぼ?ひらく)さんは文芸学科の1期生。2016年、第5回集英社みらい文庫大賞で優秀賞を受賞したことを機にデビューしました。シリーズ開始時は名取市役所の職員として働きながら執筆を行っていましたが、現在は作家活動のみに専念。日々、原稿と向き合い続ける大久保さんにお話を伺いました。
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書きたいのは自分自身が楽しめる作品
主に小?中学生が読者となる児童文庫作品。大久保さんが書く「ラストサバイバル」は、妹思いの優しい小学6年生?桜井リクが、毎回生き残りをかけてさまざまな競技に挑むというストーリー。現在(2021年2月時点)12巻まで発売されている人気作です。
――いつも作品を書く上で意識していることはありますか?
大久保:例えばお正月に親戚みんなで集まった時、中学生とか高校生くらいのお兄ちゃん?お姉ちゃんが小学生の子どもに「これ知ってる?」と言って教えてくれるような面白いコンテンツ。そういうものを提供したいといつも思っています。
ちなみに、児童文庫は女の子が主な読者になることが多いんですが、担当編集者によると、私の作品は男女比が同じくらいなんだそうです。それって結構めずらしいことで、男の子はどうしてもマンガに行きがちなのですごくうれしいですね。またファンレターが届いた時は、少し時間がかかってしまったとしても返事を書くようにしています。
どうしても「子ども向け」と捉えられがちな児童文庫ですが、それを面白いと思って書いている自分は大人だったりするわけで、そういう意味では「子ども向け」も「大人向け」もあまり大差ないんじゃないかなっていうのはありますね。とにかく自分自身が楽しめる作品を書きたいという思いが強いです。
――では、お仕事をしていて大変だなと思う時は?
大久保:私が書いている作品は、シリーズものではあるんですが、マンガのように「次巻へ続く」という終わり方ができないんです。どの巻から読んでもストーリーがわかるように読み切りで作らないといけなくて、そこがちょっと大変だったりしますね。
あとはやっぱり、ボツをもらった時ですかね…(笑)。何度も書き直しさせられることもありますし。
――書き直すことで、作品がより良くなっていく感覚はありますか?
大久保:もちろんありますけど、書き直している最中に「なぜ前の原稿ではダメだったんだろう?」と思うこともあります。ただ、読み返してみると「直して正解だった」と思う時の方が多いです。そこは指摘していただいた担当編集者に感謝しながら、日々やり取りしています。
――ところで、大久保さんは2019年の秋まで作家だけでなく公務員のお仕事もされていたそうですが、その後フリーランスになったことで大きく変わったことはありますか?
大久保:公務員の仕事を辞めたことで、外部とのつながりが無くなってしまったというのはあります。ただ、私は根本的に全部プラスで考えるタイプなので、確かに人との関わりが減ってしまったのはマイナスではあるんですけど、原稿を書く時間が増えたことはプラスですし、働きながら書くスタイルを経験できたことはとても良かったと感じています。やっぱり、最初から作家一本で食べていこうとするよりも、まずは働きながらある程度お金を貯めて、安心して執筆できる環境を整えてから、というのがいいんじゃないかなと思いますね。
ちなみに今は、朝起きてごはんを食べたら机に向かって書いて、というように、できるだけ時間やスタイルを決めて毎日書くようにしています。
個性豊かな仲間と切磋琢磨した4年間
――ところで、芸工大の文芸学科に進学しようと思ったきっかけは?
大久保:高校時代は文芸部に所属していたんですけど、地元?宮城県の隣県にある芸工大に文芸学科が新設されると知って興味を持ちました。「1期生ってなんかかっこいいな」っていうのもありましたし(笑)。
実際、芸工大での学びは本当に楽しかったです。最初に衝撃を受けたのは、同期のみんなの本を読む量でした。とにかくたくさんの本を読んで、そして書くという人たちが1学年だけで30人も40人もいるというのは、学びの場としてすごく良い環境だと感じました。普段、そんな人たちとはなかなか出会えませんからね。高校の文芸部でも多くて5~6人という感じなので。
――当時の学びの中で、特に印象に残っているものはありますか?
大久保:私が1~2年生の頃、1人の作品に対して同じ学年の学生全員が意見を言い合うという授業がありました。まだ入学したばかりで合評のやり方もよくわからないような状況の中、僕ら1期生はとてもクセが強かったらしくみんなボロクソ言ってました(笑)。でも私はその学びがすごく面白かったです。
今も同期の仲間とはオンラインでリモート飲み会をしたり、あと文芸学科で副手をしている仲間がいて、その流れでオープンキャンパスの際にオンラインで参加したりもしました。
――同期の仲間との関係が現在も良い形で続いているんですね
大久保:そういった横のつながりを求めに行くことも、大学に入るひとつの意義だと思うんです。
言ってしまえばこのインターネット社会、作品を書いて発表することなんて1人ででもできるわけで、じゃあなんで大学に行くのかって言ったら、私は「書く場」を求めに行くっていうのが一番大きいのかな、と。自分1人で書くよりも、大学で仲間から刺激を受けたり、もしくは単位を取るために頑張ったり、また本を読む機会を与えられたり、そういう場に身を置けることが大学の良さなんじゃないかな。そして、その時期にしか得られない「人とのつながり」を作れることが大学に行く価値なのではないかと思っています。
学生の頃から大切にしてきた、「書き続ける」こと
――お仕事する上で大切にしていることを教えてください
大久保:とにかく「書き続けること」ですかね。ただ、書いている量自体は今より大学の時の方が多かったかもしれません。
というか学生の頃は正直、量に逃げていた部分もあったと思います。作品に求められるのはもちろん質なんですけど、他人から見て私の作品の質が高いかどうかなんて自分ではわからないし、自分では「傑作が書けた!」と思っても、他人から見て「つまらない」となってしまったら、じゃあその作品を書いたことは無駄になるのか?って。でもそれが質じゃなくて量ということになれば、例えば「300ページ書けた」という事実が自分にとって確実な自信につながるんですよ。
「質を求めなければどんなに書いても意味がない」とおっしゃる方もいるでしょうし、質を求めることは当然大事だと思います。でも私は、その前にまず絶対的な量を確保した方が気持ち的に楽になると思うし、量を重ねて経験を積むことで質も上がってくると考えています。
アイデアが枯渇すると、「書きたくない」と思うことも当然ありますよね。でもそんな時でも書き続けられるかどうかというのはとても大きくて、多分書けなくなっても1週間くらいすればまた書けるようになったりするんですよ。でもそれはそれとして、大事なのは「今、書けるかどうか」。ま、それはある意味、自分への戒めの言葉でもあるんですけどね。
――大久保さんは、書き続けることで自然と質が上がっていったという実感はありますか?
大久保:そうですね。でも昔の作品は昔の作品でいい熱があるんですよ、粗削りなんですけど。今の作品はちゃんとまとまっているんだけど、熱が無くなってきているような気がしたり、でもやっぱり昔の作品にはちょっと雑な部分があったり余計な描写があったり。いろいろ思うところはあります。
――ちなみにストーリーを考える上で必要となるソウゾウリョクの源は、普段どうやってインプットされているんですか?
大久保:実は、アウトプットだけでやってきた部分が結構大きくて…。昔から読むことよりも書くことにばかり力を入れていたので、学生の頃からよく読書量の少なさを指摘されることがありました。高校の先生には「三角形になるべきところが逆三角形になってしまっている。もっと本を読んだ方が、土台が安定してしっかりとした三角形になるよ」と言われたり。それでもなんとか作家になることができましたが、やっぱり学生時代にいろんな本をたくさん読んで、感性を高めることはしておいた方がいいと思います。
人の感性って、社会に出て働き始めると変わってきたり、インプットする時も素直に楽しめなくなってしまったりすることが少なからずあると思うんです。でも小さい時や学生の頃って、余計なことは何も考えずにインプットできてたなって。そんな風に「学ぼう」とか「インプットしよう」などと意識せずに触れたものの方が、後になってふと思い返した時、より記憶に残っていたりしますしね。
最もインプットが楽しい時期は、小?中?高校生の頃だと思うので、その時期にどれだけインプットできたかは、後々大事になってくるかもしれません。
――大久保さんはどんな人が文芸学科に向いていると思いますか?
大久保:高校の時の私は、友達がほとんどいなくて一人ぼっちでいることも多かったんです。でもこうやって作家になれましたし、逆に言えば、部活でサッカーばかり頑張ってきたというような人だってもちろん作家になれる。なので「文芸学科に向いている人」は、「どんな人でも」でしょうね。
――それでは最後に、芸工大を目指す受験生へメッセージをお願いします
大久保:皆さんにぜひ伝えたいのは、常に私の中にある思いでもあるんですが、「どんな選択をしても間違いはないよ」ということ。
一言一句正確なわけではないのですが、私がとても好きな作家?夢枕獏さんの作品の中に「全ては肯(よし)である」という言葉があるんです。そして「あなたの苦しみは正統である、あなたの哀しみは正統である。なぜならあなたという存在が正統だからである」といった言葉が続くんですが、それがものすごく力になるというか。
「どんな選択をしても間違いはない」というのは、言い換えれば「どんな選択をしても後悔するかもしれない。でも自分が選んだ道ならその後悔でさえも肯定した方がいい」ということだと思うんです。だから後悔するのも全然悪いことじゃないな、って。
私は今こうして一応作家になってインタビューを受けていますが、もしかしたら皆さんもいずれ同じようにインタビューを受ける日が来るかもしれない。その時、読み手はどんな風に答えて欲しいと思っているかを今のうちから考えてみるのも面白いですよ。それって結構、力になりますから。
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学生の頃から、量を重ねて経験を積むことで自信につなげてきた大久保さん。同期とのかけがえのない学びの時間、そしてそれを提供する場となった「文芸学科」の存在が、作家活動を続ける上で今も大きな励みになっていると感じました。
「ラストサバイバル」シリーズは今後も続いていく予定とのこと。自らが楽しいと思える作品を書き続けている大久保さんのさらなる活躍が楽しみです。
(撮影:瀬野広美 取材:渡辺志織、企画広報課?須貝)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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