山形駅前にある「山形市農業協同組合」(以下、JA山形市)に2016年に入組された、グラフィックデザイン学科の卒業生、齋藤 萌(さいとう?もえ)さん。農業振興と地域活性化のため、JA山形市の農産物の販促物をはじめ、さまざまなデザインを手掛けています。
芸工大から初入組となった齋藤さん。農業という分野で、グラフィックデザインをどのように生かしているのか、お話をお聞きしました。
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きっかけは「山形セルリー」
――普段はどのようなお仕事をされているんですか?
総務課の課員として、職員の出勤簿?休暇届の管理などを行うほか、広報を担当しているので、JA山形市の広報誌を制作したり、貯金などの信用事業、一般の保険業務にあたる共済事業、不動産事業などの販売促進のためのポスターやチラシ、ATMに設置している紙幣袋のデザイン、ホームページの更新作業、農業新聞の記事執筆なども行っています。先日は、営農部署の職員が研究大会に出場することになり、パワーポイントの資料作成なども行いました。
――多岐に渡りますね!
他にもまだいろいろあるので、後でぜひご覧になってください(笑)。
――「JA山形市」は、どんな役割を担う組織なのでしょうか?
旧山形市を管轄地域として、農業生産振興と地域の活性化に取り組んでいる組織です。農産物の販売のほか、信用事業、共済事業、不動産事業、健康福祉事業、農業者経営支援事業、相続まるごとサポート事業などを行っています。現在加盟されている農家は約650戸、1,200人ほどです。准組合員※ は4,600人ほどいらっしゃいます。
※「正組合員」は農業を仕事にしている人(団体)、「准組合員」は地域に住み農業以外の仕事をしている人がJAの事業を利用するために出資金を払い込み、手続きをすることで加入することができる。――どのようなきっかけで入組されたのですか?
JA山形市は、2014年から取り組んでいる山形市の特産野菜「山形セルリー」の生産支援を目的に、鶴岡市のイタリアンレストラン「アル?ケッチァーノ」のオーナーシェフ?奥田政行(おくだ?まさゆき)さんとパートナー協定を結んでいるのですが、この協定の締結式のお手伝いをしたことがきっかけで、JA山形市に採用の面接をしてもらえることになったんです。
私はその頃、東京のデザイン制作会社への就職を希望していたのですが、なかなか内定をもらえずにいました。そんな時に、グラフィックデザイン学科の中山ダイスケ(なかやま?だいすけ)先生からこのお話をいただいたんです。学生時代に、農業関係のデザインを多く制作していたので、それできっかけをいただけたのかなと思います。
――もともと農業に興味があったんですか?
高校生の頃は「将来はものづくりに関わる仕事ができたらいいな」くらいのフワッとした気持ちでいました。入学前から、グラフィックデザイン学科で地域と連携したプロジェクトを多く行っていることは知っていて、魅力的な取り組みだと感じていましたが、具体的に農業の分野で本格的に何かを作りたいと思うようになったのは芸工大に入学してからです。
大学校舎の裏にある畑に野菜を植えて、芽が出たらそれをスケッチする、そんな授業がありましたし、授業以外でも、伝統野菜の「悪戸(あくど)いも※1 」のパンフレットをデザインしました。そうした経験を経て、少しずつ農業関係のデザインに興味を持つようになりました。制作のために、農家の方に直接お話を伺ったりすると、皆さん温かく受け入れてくださるのもうれしかったですね。3年生の時には、山形の伝統野菜の、旬の時期が分かるグラフをデザインしたり、卒業制作では山形赤根ほうれん草※2 の写真集を作りました。
※1:山形市西部の悪戸地区で古くから栽培されてきた里芋。※2:山形市風間地区を中心に栽培されてきた在来品種。根や葉の付け根が赤く、食べると柔らかく甘みがある。
その山形赤根ほうれん草の写真集をJA山形市の採用面接に持っていったのですが、写真集に農業関係者がたくさん写っていたらしく、「これはあの人だ」「あの先生が写ってる」などと反応が大きかったんです(笑)。あの時は驚いたのと同時に、人と野菜、農業のつながりを実感しました。
――他にも印象的だった授業や出会いなどはありましたか?
3年生の時の「ブランディング」の授業です。そこで初めて、「社会のためのデザイン」を学びました。作って満足するだけでは駄目だということに気付かされました。
あと、在学中はテニスサークルに所属していたのですが、その仲間たちとは今もテニスを続けています。コロナ禍前までは、山形?宮城で働いている友人や先輩?後輩たちと集まっていました。学科の壁を越えて仲良くなれたし、卒業後も関係が続いているのがうれしいですね。
周囲の熱量も引き上げていく、デザインの力
――これまでJA山形市にデザイン担当者は不在だったとお聞きしました。齋藤さんが入られたことで変化はありましたか?
一緒に働く職員の、デザインに対する理解が進んでいると感じます。入組当初は、例えばテキスト情報だけを渡されることも多かったのですが、今は具体的にこうしたいという要望や意見ももらえるようになりました。上司からも、考えたことが形にできるようになって、広告に力を入れられるようになったと言ってもらえています。
――広告に力を入れることで、どんなメリットが表れていますか?
農家の方は、おいしい野菜を作るための努力は常にしていますが、外に発信する力が弱い印象があります。そのPRを私たちが代わりに行うことで、販売促進につなげられると思います。「山形セルリー」もしっかり広報することで県外での認知が高まり、売り上げもV字回復しました。
――仕事をする上で、大切にされていることはありますか?
デザインは、組合員の皆さんの所得につなげるために、組合員の皆さんのお金を使ってやっていることを忘れないようにしています。きちんと成果を挙げられるように、生産物の良さを知り、生産者の思いを聞いてデザインすることを大切にしていますね。日々、より良いものを作りたいという思いで努力しています。
――他の農業協同組合にも、齋藤さんのようにデザインを担当されている方はいるのでしょうか?
他のJAにデザイン担当者はいないと思います。だから、お隣のJAで取り扱っているさくらんぼやラ?フランスも、販促物のデザインを内製できれば、もっと認知度を上げられるのにもったいないな、と思いますね。各JAに一人ずつデザイナーがいてもいいくらいだと思います(笑)。
――苦労されている点は?
どこまで作り込むか、ですね。完成のラインやクオリティについての判断が全て私なので。迷ったときは、職員の皆さんや、たまに中山先生にも見ていただいたりしています。
イベントの企画と司会進行を頼まれた時もとても悩みました。でも、職員同士でいろいろ意見を出し合って、司会が上手な先輩にアドバイスしてもらって。全員体制で助け合う職場風土があるから、何とか乗り越えることができました。
――この5年間で、組織が活気付いたのではないでしょうか?
とても盛り上がった5年間だったと思います。ちょうど私が入組した年に始まった「山形セルリー」のプロジェクトが2020年で完了しました。このプロジェクトではさまざまな経験をさせてもらいました。一番思い出深いのは、GIマーク※ に登録されることが決まった時です。GIマークは、生産物の特性と地域との結び付きが見られる、地理的表示産品であることの証で、生産者も営農部署の職員も一丸となって登録に向けて取り組んでいました。
※地域には、伝統的な生産方法や気候?風土?土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が多く存在しています。これらの産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」です。出典:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/
GIマーク登録決定の一報が届いたのは夜だったのですが、一刻も早く組合員の皆さんに伝えたくて、決定報告のお知らせの印刷データ作成にすぐに取り掛かって、その日のうちに印刷会社に入稿して、翌日には組合員に全戸配布できるようにしました。JA山形市で働く私たち職員や、組合員の皆さんが誇りに思える出来事だったので、関わることができてうれしかったです。
――大きな達成感ですね。他にもやりがいや楽しさを感じることはありますか?
組合員の方から「広報誌、良くなったな!」という声をいただいた時はすごくうれしかったですね。「鍋敷きにしないで読んでるよ」と言われたり(笑)。広報誌を配布しに行くと「上がって、お茶飲んでけ」と言ってくださったり。そんな組合員の皆さんの温かさに触れた時、この仕事にやりがいを感じます。
――『広報やまがた』のタイトルロゴマークも、齋藤さんがデザインされたとか
山形の温かい感じ、地元の良さを感じる要素を盛り込みました。腕試しにと応募したのですが、選ばれると思っていなかったのでびっくりしました。このタイトルロゴマークが採用された時も、組合員の方が「お祝いにケーキを用意する」と言ってくださって。次に伺った時には、本当にチョコレートケーキ御膳が出てきたんです(笑)。ケーキの他にもいろいろ用意してくださって。とてもうれしかったですね。
――JA内だけでなく、外部でもデザインされることはあるのですか?
JA山形市は、山形県しあわせ子育て応援部主催「やまがたイクボス同盟」に加盟しています。その関係で、「やまがたイクボス同盟」の取り組みの一つである「ワーク?ライフ?バランス推進week」のチラシをボランティアで制作しました。外部のものをデザインする機会をいただけると刺激になります。
――今後取り組んでみたいことはありますか?
デザインの仕事の幅を広げていけたらいいなと思っています。JA山形市では、不動産事業を行っていて、組合員所有のアパートの入居率を上げるためにリノベーションも行っているので、間取りや内装のデザインなども積極的に手掛けていきたいです。
――最後に、これから芸工大を受験する後輩たちにアドバイスをお願いします
芸工大を志望される方には、芸術やデザインを学びたいという方が多いと思います。でもそれは一つのきっかけで、社会に出るまでの間に、きっとたくさんのことを経験します。大学生活の4年間にはいろいろな出会いがあり、私のように予期していなかった縁があって、仕事につながることもあります。芸術、デザイン、それぞれ志すものはあると思いますが、いろいろなことにチャレンジして、可能性を広げてほしいと思います。
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農業という視点から、伝統野菜や農家の方と出会い、人や社会のためのデザインを学んだ齋藤さん。人と接した時に感じた温かさや感謝の気持ちが、デザインに生かされているように感じました。
芸工大の学びは、大手製造業や広告代理店などのデザイン職に就かなければ生かせないものではなく、さまざまな業種で活躍できるということを、齋藤さんのご活躍から改めて感じました。
(撮影:瀬野広美 取材:上林晃子、企画広報課?須貝)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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