プロダクトデザイン学科を卒業後、大手家具メーカーである株式会社オカムラに入社した田中敦(たなか?あつし)さん。オフィス市場をはじめ、ホーム市場やゲーミング市場など、あらゆる分野で使用される家具のデザインを担当されています。私たちが一日の大半を過ごす学校や会社、自宅といった空間に欠かせないプロダクトだからこそ、デザイナーに問われるものとは。大学時代の経験とあわせてお聞きしました。
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構造自体が意匠になる、家具というプロダクトの魅力
――はじめに現在のお仕事内容について教えてください
田中:現在はオフィス市場を中心に、オフィスチェアなどのデザインを担当しています。他にも弊社にはパブリック市場やホーム市場、商環境などの事業があるので、そういった分野のプロダクトデザインですとか、また2年ほど前からはゲーミング市場にも参入しておりまして、ゲームをプレイする際に使用する什器のデザインなども経験させてもらっています。
――プロダクトデザイナーになろうと思ったきっかけは?
田中:もともとはインテリアデザイナーになりたくて芸工大へ入学しました。両親が転勤族だったので小さい頃から何度か引っ越しを経験したんですけど、その度、家具屋さんに行ったりインテリアを選んだりするのがとても好きで。自分の部屋を初めて持った際に、快適に過ごせるよう自身で考えて生活を構築できるというところに楽しさを感じて、その頃からインテリアデザインに興味を持つようになりました。でも芸工大でプロダクトについて学んでいくうちに、家具のデザインまでできるようになった方が、卒業後、より幅広く仕事していけるんじゃないかと気付いたんです。それでインテリアのデザインから家具のデザインに方向転換しました。日本の家具メーカーでプロダクトデザイナーを募集しているのは、大体オフィス家具関係の企業が多く、その中でもトップを走るオカムラで働いてみたいと思ったのが入社のきっかけですね。2年生の時にオカムラと産学連携演習をした経緯があり、授業を通して詳しく知る中でその思いをより強くしていきました。またプロダクトデザイン学科の教授で、以前オカムラでプロダクトデザイナーをされていた藤田寿人(ふじた?ひさと)先生から家具のデザインの多くのことを教わったことも非常に大きかったです。
――これまで手がけられた製品の中で、より印象に残っているものは?
田中:一番思い入れがあるのは、「Swift IV(スイフト クアトロ)」という電動昇降デスクになります。今までの電動昇降デスクというのは脚が太くてオフィス然としたものが多かったんですけど、このプロダクトに関しては、企画の段階からオフィスに限らずホーム市場でも使えるものをということで展開したため、これまでにない製品になりました。電動昇降デスクには配線が付きもので、自宅にあるとお子さんが線に引っ掛かってしまう可能性もあるんですね。でもこの製品はバッテリーを搭載しているので、完全に配線レスで上下昇降できるんです。オフィスや自宅などいろいろな所で使えるデザインにするため、無駄な部分をそぎ落としながら、本当に自分が欲しいと思えるデザインになるまで突き詰めていった結果、2022年のグッドデザイン賞のベスト100に選んでいただくことができました。自分が目指してきたものが世の中に対して間違っていなかったと答え合わせできたようで、とても嬉しかったです。
また弊社には、テーブルやソファなどを組み合わせて、コミュニケーションを誘発させたり、様々な空間を構築する「クリエイティブファニチュア」というジャンルがありまして、その中の「Work Carrier(ワークキャリアー)」という製品で、2022年のグッドデザイン賞、そしてレッドドット?デザイン賞という国際的なデザイン賞では、最高位賞のベスト?オブ?ザ?ベストもいただくことができました。私と先輩の2名でデザインしたものなんですが、こういった外部からの評価というのは、やっぱりやりがいにつながりますね。
――プロダクトデザイナーとしてお仕事される上で、いつも大切にしていることは?
田中:これは大学時代から大切にしていることなんですが、提案する時に“自分がお金を払ってでも欲しいと思えるデザインになっているかどうか”という視点を常に持ちながらデザインに取り組んでいます。もしちょっとでも「ここがこうだったらいいのに…」と思ってしまうようであれば、それは多分まだデザインし切れていない状態で、そういった疑問が自分の中に出てこなくなるまでデザインを詰め切るということをいつも大切にしています。自分が納得できていれば相手にもしっかり説明することができますし、それが共感できるデザインになっている証拠にもなると思うので。
――どんなところにこのお仕事の魅力を感じていますか?
田中:家具というのは、家電や車などのプロダクトとは違って、構造そのものが直接意匠になってくるプロダクトだと思うんです。なので構造や動きといったところも含めてデザインしなければならないというポイントと、「空間に合うか」「本当に使いやすいか」「機能美として構造と意匠が両立できているか」。その3つのポイントをぐるぐる回りながらデザインしていく必要があるところも、家具というプロダクトのやりがいの一つなのかなと思いますね。
幅広い学びが後押しした、プロダクトデザイナーへの道
――芸工大を選んだ理由を教えてください
田中:地元?仙台の専門学校にするか、それとも同じ東北にある芸工大にするかを選ぶ中で、芸工大のオープンキャンパスに行ったんです。その時、当時プロダクトデザイン学科の学科長だった片上義則(かたがみ?よしのり)先生とお話しさせていただいて。私は高校までずっと野球しかしてこなくて、美術は全くできないところから受験を志そうとしていたんですね。そういった不安な点をご相談させて頂いた際に「もし君がここに入学できて、本気でデザイナーになりたいと言うなら、私が責任をもってデザイナーにする」とおっしゃってくださったんです。4年間本気になって勉強したら、自分でもデザイナーになれる可能性があるんだっていうのをその一言から強く感じて、4年間芸工大で頑張ってみたいと思い、受験することに決めたという思い出があります。
――実際に入学してみていかがでしたか?
田中:入学後間もなく、思考構想演習という授業がありました。それは自分の将来のキャリアを見据えながら、どういう会社に入ったら年収がどれくらいで、どこに住むと家賃はどのくらいで、とリアルにライフプランを考えていくものだったんですけど、その授業を受けたことで、自分が目指すところへ到達するためには大学4年間で何をしなければならないのかを明確にすることができました。
また先輩方との距離もとても近くて、4年生の先輩方がどんな勉強をし、そしてどんな就活をしてデザイナーの内定を得られたのか、生の声を聞ける環境が1年生の時からあったというのもすごく良かったですね。
それから3年生の時に取り組んだ天童木工さん?秋田木工さんとの産学連携演習もとてもやりがいのある演習でした。それぞれ成形合板と曲げ木の技術を使ってイスのデザインをするというものだったんですが、成形合板や曲げ木ができる大学なんてそうそうないですし、直接、天童木工さん?秋田木工さんにデザインをお見せして講評をいただけるというところにも非常にやりがいを感じました。
私は家具領域専攻でしたが、周りには家電やクルマ、インテリアなどあらゆる領域のデザイナーを目指す同期がいて、お互い「負けたくない」という気持ちでやっていたと思うんですね。そういった友人たちと切磋琢磨しながら、自分が目指したい道のデザインの勉強を突き詰められるというところがプロダクトデザイン学科ならではの良さなのかな、と。同期の友人達とは社外のコンペに一緒に参加したり、お互いの仕事について話したりするなど、デザインを通して今もつながっています。
――その頃の学びは今のお仕事でも生かされていますか?
田中:全部生きていますね。基本的な家具のデザインはもちろん、図面の引き方や加工の知識、そういったところはそのまま仕事に生きていますし、私の場合、家具だけでなく家電やインテリアデザインの演習も受けていたので、そこで得た経験も大きいと思います。仕事では家具のデザインだけでなく、空間のデザインや、家電の要素が入った製品、カタログ?Webなどのデザインを考えたりなど、芸工大で様々なデザインを学んできたからこそ、今デザイナーとして対応できている仕事が本当に多くあると思います。
――それでは最後に、受験生へメッセージをお願いします
田中:現役で活躍されている先生方から指導してもらえるというのは、非常に大きいのではないかなと。教授との距離もすごく近くて、相談をしに行くといつも120%の解答をくださる先生方ばかりでしたし、芸工大は安心してデザイナーになるための勉強ができる大学だと思います。
また芸工大には幅広い選択肢があるので、進路に迷っている人はぜひいろんな授業を受けてみて、その中で自分の興味あるものや方向性を見つけていってほしいですね。目的とするゴールは、きっとその先に自ずと見つかると思います。
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家具のデザインだけでなく、広告のデザインやディレクションにも携わる機会が多いという田中さん。学生の頃からグラフィックデザインや映像の授業などにも積極的に足を運んでいたそうで、そこで得た知識が今、広告代理店とのやりとりや、撮影の際のカメラマンとのブレストといった業務に直接紐づいていると言います。家具を使う人に思いを馳せながら、自らも納得できるデザインを目指して日々仕事に励む田中さんの土台を築いた、芸工大での学び。最後に今後について尋ねると、「家具という領域にとらわれることなく、もう少し広い視点で人の生活に関わるデザインを展開していけたら」と語ってくださいました。
(撮影:永峰拓也、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋) プロダクトデザインの詳細へ東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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