かつて美術科洋画コースで版画を専攻していた畠山美樹(はたけやま?みき)さん。卒業後は、筑波大学大学院への進学を経てWEB制作会社へ就職。WEBデザイナー?ディレクターとして経験を重ねました。現在はフリーランスでWEBや印刷物のデザインをしながら、シルクスクリーン作品などを中心に手がけるアーティストとしても活動されています。デザインの仕事と作品づくり、その両方を続けているからこそ気付けたこと、そして今も生かされる大学時代の学びについてお聞きしました。
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境界を決めない方が自分らしくいられる
――はじめに、現在のお仕事や作家としての活動について教えてください
畠山:今は千葉県松戸市にアトリエを借りていて、そこを拠点に活動している状況です。私はもともとWEB制作会社にいたのでそういった類の仕事と、最近はグラフィックデザインの仕事をいただくことも多くなりました。基本的には個人で活動されている方や企業さんから直接ご依頼をいただいて、成果物を納品するという流れでやっています。前の職場からつながりのあるお客様はほとんどいなくて、自分の知り合いなどから徐々に広がっていった感じですね。
WEBのお仕事については、WEBサイトの立ち上げからディレクションしたり、WEBページのデザインのみ担当するなどしています。印刷物の場合は、イベントのフライヤーや冊子などが多いですね。あとはロゴデザインのお仕事などもあったりします。また表現の一環として写真撮影や文章のライティングなども少しさせていただいたりしています。
その一方で作家活動にも取り組んでいて、最近は仕事が結構忙しくなってしまっているため合間にという感じではありますが、年に1~2回はグループ展などに参加して作品を発表しています。以前はシルクスクリーンの作品が中心でしたが、最近は写真作品や、音楽もちょっと作ってみたりしています。いろいろやってみたくなっちゃうんですよね。
――お仕事と作家活動の両立を考えていたのは、以前から?
畠山:芸工大を卒業した後は筑波大学の大学院修士課程に進みましたが、その時は就職するという道を一旦捨てて、制作に振り切ってやっていました。卒業してからも就職活動というものをちゃんとしていなくて、求人で見つけたIT関連の仕事を1年間していました。その後、国内でアーティスト?イン?レジデンスに取り組んだり、アルバイトでつないだりして、20代の後半でWEB制作会社に入社しました。高校生の頃から趣味でWEBサイトを作ったりしていて、デザインするのも好きだったので。ちょうどその頃というのはアートの活動に行き詰まりを感じていた時で、川崎にある美術館で版画の指導員をやったりもしていたんですけど、それと掛け持ちする形でWEBの仕事をアルバイトで始めて、そこから社員としてそのまま雇用していただきました。
――今はフリーランスで仕事しながら制作活動にも取り組まれていらっしゃいますが、その二つを両立しているからこそ得られるものとは?
畠山:私の場合は、仕事と自分の表現を分けてやっていますが、仕事の中で感じた疑問や違和感が作品づくりに生きてくることがあるんですね。自分としてはどちらも好きでやっていることなので、どちらかだけというのはちょっと違う気がして。本当はどちらかを捨てて一貫してやった方がいいのかもしれませんけど、私自身いろんなことに興味があるので、あまり境界を決めず、自由に行き来できる方が自分らしくいられるんじゃないかなと思っています。もちろんどういったスタイルが合っているかは人それぞれで、ある程度安定した収入があった上で作品を作る方が自由にできるという人もいれば、逆に不安定な負のエネルギーを作品に昇華したいという人もいます。私は仕事をしながらの方が、社会との関わり方や仕事の流れ、社会人のマナーなどが身に付くのでいいかなと。アーティストも個人事業主なので、社会人としてのマナーというのは営業をしていく上でも大事だと思っています。
――お仕事での経験が作家活動にも生きてくるわけですね
畠山:そうですね。先ほど話したように、仕事の中で感じた疑問や違和感が作品のテーマになることもありますし。作品によってテーマというのは大きく変わりますが、「人の在り方」ということは常に共通してあるかもしれません。例えば、仕事で広告を作ることも多いんですが、最近の作品では、そのような広告などの情報に惑わされて人は行動しているんじゃないか?その行動は本当に自ら選んだものなのか?とか、そういった疑問をテーマに作った作品もあります。
――お仕事と作品づくり、それぞれどんなところにやりがいを感じていますか?
畠山:まず仕事に関しては、やっぱり感謝していただいたり「任せて良かった」という声をいただいたりした時が、やっていて良かったと思える瞬間ですね。中でもデザインの仕事については、私が作ったものを通して「お客さんが増えた」といった成果をきちんと出せるかどうかというところもすごく大事になってくると思っています。
そして作品づくりに関しては、完成したものを会場などで発表して、そこで直接見ていただいた方とコミュニケーションを取っている時にとてもやりがいを感じます。また自分で直接感想を聞くだけでなく、作品を見た方同士が感想を話し合ってくださることも、私にとってはすごく嬉しいことですね。
自然の中で作品と向き合った四年間
――版画を専攻しようと思ったきっかけは?
畠山:私は洋画コース所属だったんですが、油絵の技法が自分には少し馴染まなかったんですね。もともとはイラストを描いたりWEBをいじったりするのが好きだったので、少しギャップを感じていた部分もあったかもしれません。そんな中、2年生の後半になり今後の専攻を決めるタイミングで、絵画とはちょっと違うことをしてみようと思って。それで版画の作品を見た時に「こういう世界観ってすごく良い」って思えて、当時洋画コースの中にあった版画を専攻することにしました。
当時の出来事で特に思い出に残っているのは、東京の町田市立国際版画美術館で毎年行われる「全国大学版画展」ですね。全国の大学から版画の作品が出品される版画の登竜門的な展覧会なんですが、それに向けてみんなで励まし合いながら作品を制作して、バスを貸し切って版画美術館まで行って。その頃の仲間とは今も時々連絡を取り合っていますし、何年か前からは、版画コースの卒業生有志で東京のギャラリーを会場に展覧会を開いているので、そこで顔を合わせたりしています。
――当時の学びの中で、今も仕事や制作活動に生かされているものはありますか?
畠山:芸工大ってすごく色々なことが学べる大学なんだっていう事を、後になってより実感しました。他の大学には無いような面白い授業を受けることもできましたし、何より自然が豊かで、自然と触れ合う中で生まれる作品もありました。また私の場合は地元が秋田で同じ東北だったので、環境面でも自分に合っていたと思います。良くも悪くも穏やかで、自分に向かって行きやすかったというか。その中で養われた、最後までやり通して形にする力は、今もすごく生きていると感じますね。
それから芸工大の先生方には、作品への関わり方などを色々と教えていただきました。今でも印象に残っている「自分の登る山を見つけなさい」という言葉や、公募展で入選できなかった時にかけていただいた「評価はあまり気にしなくていい」といった言葉は、自分にとって本当にありがたいものになりました。
――今後に向けて思い描いていることがあれば教えてください
畠山:デザインの仕事で、もっと自分が力になれる範囲を広げられたらいいなと思っています。今はすでにWEBや印刷物などで最初に形が決まっている中でのお仕事を担当することが多いのですが、実現したい事や、ありたい姿から逆算して必要な形やコンテンツを提案できるなど、もうちょっと深いところまで関われるようになりたいですね。
それから、会社員に近いようなチーム体制と個人事業主のハイブリッドみたいな感じになれたら、という理想もあって。今は基本的に自分一人でやる仕事が多いので、例えば私が体調を崩してしまうと回らなくなるものも多いんですよね。チームならそういう面でも安心できますし、色々な方と関わることで、自分一人ではできないことができるようになったり刺激をもらえたりするんじゃないかなと思っています。
――それでは最後に、受験生にメッセージをお願いします
畠山:私に芸工大を勧めてくれたのは高校の時の美術の先生なんですが、「すごく良い先生がたくさんいるよ」と教えてもらったことが進学の決め手になりました。実際、本当にすごく良い先生ばかりだったなと今改めて感じています。
皆さんには、興味を持てることがあったら分野とか関係なく何でもやってみてほしいですね。それが後になって絶対生きてきますし、違う分野と組み合わせることで自分のオリジナルみたいなものが生まれたりするはずですから。
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社会人になった今も、仕事する中で得た疑問や違和感といった感情を生かしながら作品制作を続けている畠山さん。ただ、日々仕事に向かう中で制作のための時間を作り出すというのは、そう簡単なことではありません。それでもその両方を楽しめているのは、畠山さんがいろんなものに興味を持ち、自分のやりたいと思うことに境界を設けず取り組んでいるからこそ。それが仕事や作品の幅、そして可能性を広げることにつながっているのは間違いありません。そんな畠山さんからどんな成果品や作品が生み出されていくのかとても楽しみです。
(撮影:永峰拓也、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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