思考を変換し、柔らかく生きることで増えていく将来への選択肢/就職部長 粟野武文教授

インタビュー

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高い就職率を支える、支援と学びの体制

――はじめに就職部長としての粟野先生の役割について教えてください

粟野:まずは学生に自分の人生をしっかり考えてもらうこと。そして先生方に対しても、就職などにおける学生への対応の仕方をレクチャーしたりしています。また2年次の必修科目であるキャリア形成論も担当しています。

就職部長 粟野武文教授 お話をされる粟野教授
研究室にて、お話を伺った粟野教授

――学内にあるキャリアセンターについても教えていただけますか?

粟野:キャリアセンターには現在4名の専任職員がいて、うち3名がキャリアコンサルタントという国家資格を持っています。また私自身も持っているので、相談に対していろんな角度から対応していけるのが特徴ですね。企業合同説明会の開催をはじめ、エントリーシートの書き方や面接練習、証明写真撮影会やメイク講座、またコロナ禍以降はリモート面接の仕方に至るまで、学生一人一人を幅広くサポートしています。

キャリアセンターでの個別面談の様子
就活の不安や疑問を解決できる、きめ細やかな相談体制
企業合同説明会の様子
企業合同説明会は最大80社以上が参加

キャリアセンターというと、どうしても就職のことが目の前まで迫って来ている3~4年生が行くところと思われがちなんですが、キャリアのことって1年生からでもイメージしておいた方が良いんですよね。なので1~2年生にも積極的にキャリアガイダンスを行うなどしながら、そのハードルを下げるようにしています。1年次からでもインターンシップの話をしたり、「何がしたいか分からない」という学生であれば、面談を行うことで「こういうものに興味があるかもしれない」とか「こっちの方が良いかもしれない」といった発見につながる場にもなっています。

――近年の芸工大の就職率はどのような状況ですか?

粟野:2021年度卒の芸術学部の就職率は98.1%、デザイン工学部は93.8%。全体で見ると95.6%で、7年連続90%を超えている状況です。

就職率推移グラフ

芸術学部でも高い結果が出ているのは、例えば美術科では3年次になると、職業としてアーティストを目指す学生はアーティストマネジメント、就職(と制作の両立)を目指す学生はキャリアマネジメントと授業が分かれていくんですね。これは数年前から始まった取り組みなんですが、こうした個々の状況に合わせた丁寧な指導が形になって数字に表れてきているのではないかなと。特徴的な取り組みとして、芸術学部の美術科、歴史遺産学科、文化財保存修復学科の3学科合同で行われているキャリアマネジメントでは、「PBL(Problem-based Learning)課題解決型授業」という企業の課題を解決するためのグループワークにも取り組んでいて、ここ数年はトヨタカローラ山形さんと提携し、授業で作ったポスターを看板にして掲示していただくなどしています。そういった学びというのは学生の自信にもつながりますし、何より、自身と異なる学科?コースの学生と交流することで、いろんな見方や考え方を持つ人たちと話ができるというのが大きいと思っています。実は、このキャリアマネジメントを受けたくて芸工大に入学したという学生も出てきているんです。

――ちなみに、芸工大ではどのような業種への就職が多くなっていますか?

粟野:パーセンテージで見ると小売?卸売?宿泊?飲食業が多く、次いで情報通信や製造業などが多くなっています。比較的理系寄りの文化財保存修復学科では、例えば防虫系の学びから予防衛生のメーカーへ就職するなど、多種多様ですね。

業種別就職先

できない自分も認めることで進む未来

――就職に対する芸工大生の姿勢というのは、全体的に見てどんな印象ですか?

粟野:自分が目指しているものに一直線で向かっていける学生もいれば、目指したいものがあって入学してはみたけど、やっていく中で「何か違う」と思ってしまう学生もいます。大切なのは、「何か違う」と思った時に他の選択肢がいくつか出てくること。芸工大はどうしても学科ごとに特色が強い分、「その学科の学びにつながる職に就かないとダメだ」と思ってしまう学生が多いんですね。でもそれではもったいない。学生には、「経営学部を卒業した人みんなが経営者にはならないし、法学部を出た人みんなが法律家にはならないよね。それは芸工大も同じで、美術科を出たから美術系の仕事に就かないといけないなんてことはないんだよ」という話をよくしています。デザインやアートを学ぶ過程で得た力というのはどんな職業にも生かされるもの。ですからぜひ柔軟に考えてほしいと思いますし、そのことは私が担当しているキャリア形成論でも伝えるようにしています。

就職部長 粟野武文教授 お話をされる粟野教授

――そのキャリア形成論とはどういった授業になりますか?

粟野:この授業を行う2年次頃というのは、一番緩みがちだし悩みがちなんですね。閉塞感を感じたり人間関係で悩んだり、「先生に認められたい」という承認欲求が強い人もいれば、孤独感を抱えている学生も多くいます。このキャリア形成論では、まず自己効力感を身に付けることを授業の柱にしています。自己効力感とは、何かをやろうと思った時に「私はできる」と思って取り組める力ですね。そしてもう一つの柱が、職種や役職といった外的キャリアに対して、「自分は何をやりがいにして生きていきたいか」とか、「自分はどういったものに心が動くのか」といった内的キャリアについて考えること。そうやって自己理解を深め、そこから自己受容につなげていくことをイメージして授業を作っています。

キャリア形成論の授業の様子
2年生の必修科目であるキャリア形成論の授業の様子。他者と能動的にコミュニケーションを取る場面もある

――まずは自分について理解する必要があるわけですね

粟野:「自分はなぜそれをやりたいのか」を考えることは、生きる上で原動力になると思うんです。「自分はこういうことにやりがいを感じるからこの職が向いてるかもしれない」とか、「今までこういう瞬間にいつも楽しさを感じていたから、それを味わえる仕事を探してみよう」とか、そういう流れで考えていってほしいなと。そのためには自己理解しないと始まらないし、それを受け容れることが必要になります。自己受容とは、「自分にはこれができないけどそこからどうしていこう?」と考えられること。それができないから「努力しよう」なのか、それとも「違う方で勝負しよう」なのか。そのできる?できないを全部ひっくるめての自分というものを認めていくのが自己受容なんですね。そうやって目的に向かって歩いていける方が面白いんじゃないかなって思ってます。

人間には「べきである」「ねばならない」という思いがあって、そこから外れる出来事があると悲しんだり怒ったりするんですね。なので「自分は常にうまくやるべきだ」みたいな考えを少しでも持っていると、うまくいかなかった時に落ち込んでしまうわけです。でも、「べきである」「ねばならない」ことなんて、世の中にはほとんどないんですよね。プロの野球選手でさえ3割しか打てないんですから。そんなふうに思考を変換して柔らかく生きていこうというのが、私が大切にしている論理療法の考え方。芸工大には「べきである」「ねばならない」が強い学生が結構多くいるので、そこを変えていけるような授業にこれからも取り組んでいきたいと考えています。

――最後に、受験生や学生に向けてメッセージをお願いします

粟野:受験生であっても学生であっても、やっぱり選択肢は多く持ってほしいと思っています。一つのものにこだわることもとても大切ですが、こだわる必要のあるものとないものとを分けて考えられるようになるともっと良いですよね。どんな仕事であっても、もしかしたら明日にはなくなってしまうかもしれなくて、もしそれが「自分はこれしかやりたくない」と思っているものだったとしたら、お先真っ暗になっちゃうじゃないですか。でもそんな時、自分がやってきたことを、「別の形で生かせるかもしれない」とか「あの職種で生かせるかもしれない」という方向で考えていけると、そこで落ち込む必要はなくなります。それは万博体育投注_万博体育彩票-下载app登录を送る上でも同じで、やりたいことがあるなら学科を越えて、例えば洋画コースと映像学科とでコラボしてみるとか。そういう横のつながりを大切にしながら、あまり自分の枠を作らずに、柔軟にやってみてほしいですね。

コロナ禍でリモートになって以降、一人で悩んでしまう学生というのはより増えていると感じます。でも一人で悩む必要なんて全然ないし、学生にも「せっかく学費を払っているんだから、キャリアセンターでも何でも使えるものは使った方が良い!」と話しています。また本学では年に3回、先生と学生は必ず面談することになっていて、それ以外にも学生自らキャリアセンターに面談を申し込んだりと、ここまでしっかり面談をやる大学というのはめずらしいんじゃないかなと。ぜひ学科の先生に限らず、私を含めいろんな先生のところへ相談に行くなど自由に動いて、視野を広げてみてください。

就職部長 粟野武文教授 お話をされる粟野教授

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以前、卒業する学生から「キャリア形成論を通して、困難にあった時こそ柔軟な考え方や試行錯誤が大切だと分かりました」とコメントをもらい、授業のねらいがどこにあるのか気付いてもらえたことがとても嬉しかったという粟野教授。高い就職率の裏には、進路について安心して相談できる体制と、希望する進路に合わせた学びの場、そして将来の選択肢を増やすことにつながる深い自己理解?自己受容があることが分かりました。

最後に、本学の様々なキャリア支援を活用して希望の進路先へ進む内定者の声をお届けします。

入学当初の私は自分に対しての自信がなく、とてもネガティブな人間だったのですが、芸工大のキャリアの授業や粟野教授と出会えたことで、見違えるほどに柔軟な思考を持ち、自己肯定感の高い人間になることができました。この出会い、経験は私の宝物です。粟野教授に教えていただいたことを日々反芻して、これからも私らしく頑張っていこうと思います。 (映像学科4年 木村和香<きむら?わか>さん 株式会社ロボット内定)

キャリアガイダンスで、スケジュールからインターン、企業研究、自己アピール等、就活の基本についての丁寧なレクチャーを受けたことで、良い就活のスタートダッシュを切ることができました。私はキャリア支援の中でも個別相談を頻繁に利用し、選考の前には必ず履歴書の添削と面接練習を受けていました。内定後に進路を決定する際も職員の皆さんが親身になって相談にのってくれ、納得のいく進路決定ができました。(歴史遺産学科4年 加藤彩花<かとう?あやか>さん 日光市内定)

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(撮影:布施果歩、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋)

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粟野武文教授 プロフィール

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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